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尾白川渓谷

筑波嶺の峰より落つるみなの川 恋ぞ積もりて淵となりぬる       陽成院

【訳】筑波山の峰から落ちる男女川(みなのがわ)の水が、積もり積もって淵となるように、私の恋心も深く積もるばかりだよ。

瀬をはやみ 岩にせかるる 滝川の われても末に 逢はむとぞ思ふ     崇徳院

【訳】川の流れが速いために岩にせきとめられる滝川が、分かれてもまた一つになるように、別れてもまたいつか一緒になりたいと思う。

「筑波嶺の」の歌は、「嶺」や「峰」から落ちる水の激しさや、「淵」の暗く淀んだイメージを喚起し、陽成院の恋心の激しさや、思いがかなわぬことへの鬱屈とした心情を感じさせます。

「瀬をはやみ」の歌は、高校古文の「形容詞の語幹用法」の説明で例文としてよく用いられます。「はや」は形容詞「はやし」の「語幹(=活用しても変化しない部分)」であり、「語幹+み」で、「理由(~ので)」を表します。「瀬」は「流れ」なので、「瀬をはやみ」は「流れがはやいので」と訳します。

 どちらも百人一首の恋の歌ですが、川遊びをしたことがないと「淵」「瀬」のイメージが湧きづらいのではないでしょうか……。ということで、山梨県北杜市の尾白川渓谷に行ってきました。

 とにかく水が綺麗。水道水と見紛うほどに透明で、逆に不自然な感じがします。普段遊んでいる浅川と比べると雲泥の差、月とすっぽん、提灯に釣鐘ですね。川を上っていくと、美しいエメラルドグリーンの水を湛える「淵」に辿りつきます。

 大学生のとき、何かの授業(おそらくフランス思想)で「悪臭の発見」という話を聞いたことがあります。18世紀、パリはまだ下水道が整備されておらず、現代の基準からすると大変劣悪な衛生環境でした。至る所に排泄物が散乱し、大変な臭気を放っていたというのです。関連する記事を引用します。 

 19世紀の後半になるまで、パリの住宅には十分な設備のトイレがありませんでした。あってもくみ取り式で清掃は全くされず、その臭いはアパルトマン全体に沁みわたっていました。たまに汲み取り業者がやってきて、トイレの汚物を専用の壺に入れて馬車に積み込み郊外の廃棄場へと持っていきましたが、移動中に壺から中身がこぼれ、パリの石畳を汚しました。住居にトイレがない場合は「何もかも路上へ!」方式が採用されました。つまり汚物を直接窓から外へ放り投げたのです。パリの通りはおぞましいトイレの底と化し、窓からの贈り物にぶつかる不運な被害者が後を絶ちませんでした。

パリ観光サイト「パリラマ」https://paris-rama.com/top.htm

 今の感覚からすると耐えがたい環境ですが、当時の人にとってはそれが日常ですから、臭いという意識はなかったことでしょう。上下水道が整備され、悪臭がなくなったことで、「自分たちは臭かった」ということに気づいたのです。
 
 尾白川に話を戻すと、北杜市は「サントリー南アルプス天然水」の採水地の一つらしく、岩にぶつかった水しぶきや、子どもがかけてくる水が口に入っても「美味しく」感じます。そして、その時初めて気づきました。

浅川の水、臭かったんだ……

 浅川版「悪臭の発見」です(それでも30年前に比べると格段に改善されているようですが)。

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ひまな一日

 先日の日曜日。幾つかの原稿の締め切りが迫っており、一日仕事にあてようかと思っていたのですが、部屋で仕事の資料を探していると、少し前に次女が学校で作った詩が出てきました。タイトルは「ひまな一日」。

めっちゃ暇そう(笑)

 ということで、仕事はやめて近くの川に遊びに行きました。家の近くにはプールもありますが、川は訪れる度に水の流れや河原の植生が変わっていたり、突然魚が飛び跳ねたりと、予想外の出来事が起こるのでこちらの方がワクワクしますね。写真のボートは3年前に購入したものです。4000円位でしたが十分楽しめます。

 我が家の川遊びは、ボート・浮き輪で川流れ・魚(どじょうのような小さなもの)捕りが定番です。3人の子どもは皆それほどやんちゃなタイプではありませんが、川遊びは慣れているのでどんどん入っていきます。


 ちなみに、次女の詩はもう一つありました。タイトルは「おかががグー」。

めっちゃ空いてそう(笑)

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横須賀めぐり

 2023年の大学入学共通テストで正岡子規に関する文章が出題されました。

 寝返りさえ自らままならなかった子規にとっては、室内にさまざまなものを置き、それをながめることが楽しみだった。そして、ガラス障子のむこうに見える庭の植物や空を見ることが慰めだった。味覚のほかは視覚こそが子規の自身の存在を確認する感覚だった。

柏木博『視覚の生命力―イメージの復権』

 僕はこの問題を解く少し前に、たまたまNHKドラマ「坂の上の雲」を観ていました。この作品は、明治期に俳句革新や短歌革新を進めた正岡子規、日露戦争でコサック騎兵を破った秋山好古、日露戦争で連合艦隊作戦参謀として活躍した秋山真之という松山出身の3人の生涯を描いたものです。子規(香川照之)は、自由奔放で、情熱的で、人たらしな人物として大変魅力的に描かれており、上の文章を読んだときには、「あの子規が出てきた!」という感じで、心が前のめりになりました。そうなると、文章の意味がどんどん頭に入ってきます(逆に、つまらないと感じると、いくら読んでも理解が進みません)。興味と読解力は密接につながっています。

 先日、子どもを連れて、猿島という無人島に遊びに行ったのですが、島に向かうフェリー乗り場の近くに戦艦「三笠」が展示されていました。三笠は日露戦争で秋山真之が乗っていた戦艦です。日本史にも軍事兵器にも疎い僕ですが、これは行くしかないでしょう。坂の上の雲効果です。


 『戦国姫』シリーズが好きなせいか戦艦にも興味をもち一人でぐいぐい進む長女、戦艦には興味が無いけれど高い所に行きたくて階段をどんどん上る次女、とにかく自分が先頭じゃないと気が済まなくて泣きわめく三女という噛み合わせの悪い3人だったので、あまり落ち着いて見学できませんでしたが、とにかく現物を見ることができて良かったです。
 後日、予備校の授業で太宰治『葉桜と魔笛』を扱いました。その中に次のシーンがあります。

どおん、どおん、と春の土の底の底から、まるで十万億土から響いて来るように、かすかな、けれども、おそろしく幅のひろい、まるで地獄の底で大きな大きな太鼓でも打ち鳴らしているような、おどろおどろした物音が、絶え間なく響いて来て、私には、その恐しい物音が、なんであるか、わからず、ほんとうにもう自分が狂ってしまったのではないか、と思い、そのまま、からだが凝結して立ちすくみ、突然わあっ! と大声が出て、立って居られずぺたんと草原に坐って、思い切って泣いてしまいました。
 あとで知ったことでございますが、あの恐しい不思議な物音は、日本海大海戦、軍艦の大砲の音だったのでございます。東郷提督の命令一下で、露国のバルチック艦隊を一挙に撃滅なさるための、大激戦の最中だったのでございます。

太宰治『葉桜と魔笛』

 この音も三笠の大砲の音なのかもしれません。入試とドラマと遊びと授業…、色々とつながります。

猿島①(外観)
猿島②(要塞)
YOKOSUKA軍港クルーズ
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児童文庫

 前回の投稿から約2年が経ちました……。地味に再開していきます。2年前、「1巻作戦」を紹介しましたが、その甲斐あってか(?)、長女はすっかり児童文庫好きになりました。今でも、青い鳥文庫(講談社)つばさ文庫(KADOKAWA)みらい文庫(集英社)の3文庫は毎月新刊をチェックしています。

 当初は居住市と隣接3市の図書館利用カードを作り、読みたい本を片っ端から借りていましたが、最近はすべて買うようになりました。購入のメリットは、

① 読みたいときにすぐ読める。
② 繰り返し読める。 
③ 次女・三女にとって本が身近になる。
④ 友達に貸せる。※長女談

①:人気シリーズになると、新刊が出ても貸出待ちで数か月ということがあります。〈読みたい時を逃さない〉のが読書の鉄則だと思うので、貸出待ちでタイミングを逸することは避けたいですね。

②:お気に入りのシリーズが見つかり、繰り返し読むようになると、毎回図書館で借りるのが煩わしくなります。やはり常に手元にあると読みやすい。

③:最近は電子書籍も増えてきましたが、小さい子どもにとって「物」としての本が近くにあることは大切だと思います。〈なんとなく視界に入っている〉ことで、ふとしたタイミングで手が伸びるのではないでしょうか。

④:長女曰く、クラスメイトに『四つ子ぐらし』を貸したことで、クラス内でプチブームが起こったとのこと。好きな本について語り合う友達が増えると嬉しいですよね。

長女が選ぶ1番面白かった本
2021年度(小3)
『いみちぇん』
2022年度(小4)
KZシリーズ
2023年度(小5)
『ひなたとひかり』

 購入することのデメリットは、なんといってもお金がかかることですね。とはいえ、1冊700円程度ですから、「飲み会1回分≒5000円」で「文庫約7冊」買える計算です。好きな本×7に熱中する時間の方が、飲み会よりもずっと中身が濃いはずなので、今後もどんどん買っていきます。

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新美南吉記念館

 6月5日。【新美南吉記念館】に行ってきました。昨日の【清洲城】【名古屋城】は長女の趣味に合わせたものですが、新美南吉は父親(西原)の趣味です。この記事でも書いたように、新美南吉「ごんぎつね」は小学4年生の教科書に採録されています。昨年、「娘との会話の材料になるかな」という軽い気持ちで「新美南吉童話集」を購入しました。童話というと「ハッピーエンドの心温まる話」というイメージがありますが、新美作品で描かれるのは「他者との分かりあえなさ」です。「ごんぎつね」も、わかりあえたときには死が訪れるというラストですね。他にも「デンデンムシノカナシミ」「小さい太郎の悲しみ」「久助君の話」など、柔らかく優しい文体で痛切な哀しみを描く南吉の世界にハマり、「いつか必ず記念館に行く」と決めていました。

「ごんぎつね」に登場する地蔵。ごんが兵十の入った家を覗いています。

 記念館の中に入ると、「ごんぎつね」など南吉作品の世界観を表現した展示や、南吉の生涯の詳しい解説がありました。その1つが南吉の日記です。

人間の心を筍の皮をはぐようにはいでいって、その芯にエゴイズムがあるということを知る時われわれは生涯の一危機に達する。つまり人というものは皆究極に於てエゴイストであるということを知るときわれわれは完全な孤独の中につきおとされるからである。

(昭和12・3・1 日記)

人間は皆エゴイストである。常にはどんな美しい仮面をかむっていようとも、ぎりぎり決着のところではエゴイストである。———ということをよく知っている人間ばかりがこの世を造ったらどんなに美しい世界が出来るだろう。自分はエゴイストではない、自分は正義の人間であると信じ込んでいる人間程恐ろしいものはない。かかる人間が現代の不幸を造っているのである。

(昭和12・10・27 日記)

 ほら、南吉ってやっぱりそうだよね、という感覚でした。変な言い方ですが、いかにも「西原が好きそうなこと」を書き残しています。こんなことを書く人の作品を自分が好きになるのは当然だな、という感覚です。

 上の写真は「手袋を買いに」の一幕です。多くの人が子どもの頃に読んだのではないでしょうか。

冷たい雪で牡丹色になった子ぎつねの手を見て、母ぎつねは手袋を買ってやることを考えます。人間を恐れる母ぎつねは、子ぎつねの片手を人間の手に変え、「かならず人間の手のほうをさしだんすだよ」と言いふくめて町に送り出します。店に着いた子ぎつねは、間違えて〈きつねの手〉を差し出してしまいますが、店主は子供用の毛糸の手袋を渡してやるのでした―――。

『手袋を買いに』のあらすじ

……ここまででも十分「いいお話」ですが、僕が心を掴まれたのは最後の場面でした。子ぎつねが「母ちゃん、人間ってちっとも恐かないや」「坊、間違えてほんとうのお手々出しちゃったの。でも帽子屋さん、まえやしなかったもの。ちゃんとこんないい暖い手袋くれたもの」と無邪気に語るのに対して、母ぎつねは次のように呟きます。

「ほんとうに人間はいいものかしら。ほんとうに人間はいいものかしら」

 店主は客がきつねだと気づきながらも手袋を渡しました。話の流れからすれば「人間って優しいね」で終わっても良さそうなものです。しかし、母ぎつねから出たのは「ほんとうに人間はいいものかしら」という言葉。全然信じてない……。
 勝手な推測ですが、人ときつねの心の交流という〈美しい物語〉を書こうとした南吉と、人間をエゴイストとして捉え〈そっちにはいけない〉としてハッピーエンドを拒絶するもう1人の南吉の間でギリギリの攻防があったのではないでしょうか。そして、最後のところで〈美しい結末〉に行けない南吉という人間に、僕はとても惹かれます。次のような日記もありました。

ほんとうにもののわかった人間は、俺は正しいのだぞというような顔をしてはいないものである。自分は申しわけのない、不正な存在であることを深く意識していて、そのためいくぶん悲しげな色がきっと顔にあらわれているものである。

(昭17 ・4・22 日記)

……もう、わかる、としか言えない。おこがましいけれど。

 子ども達は展示には今いちピンと来ていない様子でしたが、缶バッジ作りは楽しんでいました。グッズコーナーに「ごんのぬいぐるみ」があり、普段なら買いませんが、今日ばかりは「南吉の感慨」に浸るまま、子どもにせがまれるままに購入。記念館を出ても帰るのが惜しく、子どもを先に車に帰して写真を撮り続けます。

奥に見えるのが、「ごん」の名前の由来となった権現山(多分)。

車に戻ると、長女と次女が「ごん」を取りあい、「抱いた秒数」をめぐって猛烈なケンカをしていました。さっきまであんなに楽しそうにしてたのに……。

「わかりあう」って難しい(笑)。

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清洲城と名古屋城

 6/3、6/4の一泊二日で名古屋に行ってきました。ホテルを予約したのは2日前です。両日が休みなのは前から決まっていたのですが、模試の作題に追われており、旅行に2日費やして大丈夫なのか、と決めかねていました。

 「旅行行っちゃえよ。せっかく子どもが歴史に興味を持っているのに、このタイミングを逃す気かい?」

 「仕事しちゃいなよ。2日間仕事に費せば、後々かなり楽でしょ」

脳内で天使と悪魔が囁きます(どっちが天使かわからんけど)。

 結局〈旅行派〉が勝利。6/2には往復の通勤電車で「清須会議」(AmazonPrime)を視聴し、興味を高めておきます。単に子どものために行くよりも、親も楽しめた方が良いですからね。

 当日は朝4:30に起床し、5:30に出発。車内で子どもを寝かせることで「ドライブに飽きた子どもがグズる時間」を少なくする作戦です。7:30頃までは静かでしたが、次第に子どもたちが目覚めてうるさくなっていきます。パンを食べさせたり、SWITCHをやらせたりして凌いでいましたが、3女の機嫌がどうにもならなくなってきたので、駿河湾沼津サービスエリアへ。この日は少し曇っていましたが眼下に駿河湾の広がる爽やかなSAです。

 他に浜松SAにも立ち寄りつつ、11時には最初の目的地【清洲城】に到着。長女の敬愛する織田信長が一時期居城としていた城です。

 昨晩「清洲城へ行く」と伝えたときには飛び上がって(←比喩ではなく本当に飛び跳ねて)喜んでいた長女。現地に着いたらどれだけ喜ぶのかと期待していましたが、意外と低めのテンションです。子どもって読めないですね(笑)。城の内部は史料館になっていました。小田原城や忍城と同じです。「史料を眺めながら階を上がる→最上階から周囲を一望」というのが城見学の定番のようです。

 1時間ほどで見学を終え、次は名古屋城に向いました。以前来たのは、12~13年前です。その時は、名古屋城に隣接するホテルで友人の結婚式があり、少し早めについたので周囲を散歩しました。30分程の滞在でしたが、その間に知らないおじさんに200円貸してとせがまれたりブルキナファソ人の友だちができたりと、それなりに思い出のある場所です。今回は残念ながら改修のため天守には入れませんでした。

最近、城しか行ってないな。

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のぼうの城

 この記事で触れましたが「映画」は物事に関心を持ったり、理解を深めたりするのに役立ちます。長女が『戦国姫』シリーズ(集英社みらい文庫)の影響で「甲斐姫」のファンになっていたので、甲斐姫の登場する映画「のぼうの城」を勧めてみました。休日にNETFLIXで観ていたようです。

 『戦国姫』によると、甲斐姫は武芸に秀でた存在だったようですが、『のぼうの城』では可愛らしいヒロインといった位置付けでした。成田長親(=のぼう)役の野村萬斎さんの演技が良かったですね。
 さて、本と映画の後は実物だろうということで、埼玉県行田市にある忍城(=のぼうの城)に行くことにしました。城だけでは次女がかわいそうなので、次女が遊べる場所も探します。忍城から車で30分程度の場所に「国営武蔵丘陵森林公園」があったので、【午前:森林公園】→【午後:忍城】という流れにしました。

 森林公園はとにかく広い(東京ドーム65個分)…。とても周り切れないので、遊んだのは西口エリアだけです。遊具が詰まった「むさしキッズドーム」やアスレチックの「冒険コース」などがあって、小学生の屋外遊びに最適です(小学生以下無料だし)。13時頃まで遊び、グリルKで昼食後、忍城へ行きました。行田市郷土博物館が併設されており、御三階櫓も建っています。

リアル謎解きゲーム

 たまたま、リアル謎解きゲーム【忍城に眠る謎】が開催されていました。「シン・ゴジラ」みたいなパンフレットです。景品獲得を目指して、クイズに答えながら博物館や御三階櫓周囲をめぐるというもので、長女はこの手のゲームが大好きです。はじめは博物館の史料を興味深そうに眺めていた長女でしたが、ゲームを始めてからは全く見向きもしなくなり(笑)、クイズに没頭していました。「忍城の思い出=クイズの思い出」となりましたが、そんな経験も良いかもしれません。

 

 

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少女の日の思い出

 長女の友だち家族とBBQをする予定だったのですが、雨の可能性があったので延期となり、急遽、日帰りで山梨に行きました(朝7:00に出発し、8:30頃には現地着)。戦国時代にハマっている長女の要望に応え、今回の目的地は「武田信玄の墓」と「三条の方(=信玄の正室)の墓」です。長女が披歴する戦国豆知識(←『戦国姫』で学習)を聞きながら2つのお墓を回ります。立派なお墓ではありましたが、9時前には見終えてしまいました。 

武田信玄の墓
武田神社

 長女は満足したようでしたが、連れ回されている次女からすれば「朝早く起こされて、1時間半車で運ばれた上に、よくわからない人の墓参りをして終わった」という状況です。さすがにかわいそうなので、近くの山梨県立科学館に行きました。

便座に座って消化を学ぶ3女
巨大バブルに入る長女と次女

 ここは楽しいですね!学びと遊びがバランスよくミックスされていて、小学生であれば丸1日過ごせると思います。特に良かったのは「昆虫の標本作り体験(1000円)」でした。昆虫標本と聞き、国語教師として想起するのは、中学校の教科書掲載「少年の日の思い出」(ヘルマン・ヘッセ)です。

胸をどきどきさせながら、ぼくは誘惑にまけて、紙きれを取りのけ、ピンをぬいた。すると、四つの大きな不思議な斑点が、さし絵のよりはずっと美しく、ずっとすばらしく、ぼくを見つめた。それを見ると、この宝を手にいれたいという逆らいがたい欲望を感じて、生れてはじめて盗みをおかした。
   (略)
…大きなトビ色の厚紙の箱を取って来、それを寝台の上にのせ、やみの中で開いた。そしてチョウチョを一つ一つ取り出し、指でこなごなにおしつぶしてしまった。

「少年の日の思い出」(ヘルマン・ヘッセ/高橋健二訳/中公文庫)

 蝶を盗んだことが露見し、友人(エーミール)から軽蔑された少年は、自責の念に苛まれながら自分の蝶を一つ一つ押しつぶします。全国の中学生に何とも言えない嫌な読後感を与え続けている名作ですね。彼らがおこなっていた蝶の展翅(てんし)とはどんな作業なのか、講師として、この機会に経験しないわけにはいきません。妻は高速道路の渋滞を懸念して申し込みを躊躇していましたが、「だって本人(長女)がやりたがっているから」と説得し、娘と2人で体験しました。

 かいこがの柔らかな身体の扱いに苦労しながら細かい作業を進め、担当職員の方の講義と合わせて1時間程度で体験を終えました。展翅作業はもちろん、職員の方の生物愛溢れるお話を聞けたのも良かったです。結局、閉館時間ギリギリまで滞在し、科学館を満喫して帰路につきました。娘が中学校でヘッセの作品と出会ったとき「少女の日の思い出」として今日の日のことを思い出すのを期待しながら。

 

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三角形はいくつ?

 

 「図の中に三角形はいくつあるでしょう」

 答えは13個。小学校や中学校の算数で学ぶ(おそらく定番の)図形問題なのですが、3月に小田原城へ行った僕の目には、北条氏の家紋が浮かび上がってきます(笑)。

小田原北条氏の家紋(Wikipedeia)

 知識や経験によって世界の見え方は変わる―入試現代文あるあるですね(笑)。娘からは名古屋城や清州城へ行きたいと言われているのですが、なかなか日程的に厳しいので、とりあえず近くの城跡を探したところ、八王子に北条氏照が居城としていた滝山城跡があったので、さっそく行ってきました。

攻め入ってきた敵に奇襲をかける北条の武士

 城というよりも「要塞」という感じで、至る所に敵が攻めにくい工夫が施されていました。途中3女ににこやかに声をかけてくれた男性がおり、世間話を交わしたのですが、その方はボランティアで15年間滝山城跡の保全や調査に携わってきたということで、様々な苦労話を聞かせて頂きました。思い入れのある方から聞く話はとても面白いですね。

 滝山城はこれまで幾度も車で脇を通っていたのですが、城に興味が無かったため、全く意識したことがありませんでした。長女もそうだったと思います。興味をもつだけで世界の見え方が変わるのはとても面白いですね。子ども達にとっても、世界が興味(の対象)で溢れたものになってほしいです。

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ムーミンバレーパーク

 この記事でも少し触れましたが、長女が保育園の年長のとき、流れ星を見るために、2人で清里に泊まったことがあります。2人きりで旅行に行くと「しっかり話せる」感覚があって、家族全員で出かけるのとは違う魅力があります。次女も年長(4月から1年生)になったので、今回は次女と2人で埼玉県の飯能に泊まりに行きました。 
 夕方の授業を終えてから出発したので、飯能駅に付いたのは19時過ぎです。ホテルまで歩く途中ファミリーマートに寄り、娘の希望で「ハリボー(ゴールドベア)」を購入。すぐ近くにもう一軒ファミリーマートがあったので、この旅行のスペシャル感パパすごい感を演出するために「もう1つ、何でも買っていいよ」と伝えます。普段、お菓子を2個連続で買ってもらえることなどないので「何でもいいの!?」と目を輝かせる娘。悩んだ挙句「ハリボー(ハッピーグレープ)」を持ってきました。ハリボーしか勝たん(笑)。

 「ハリボー」はなかなかパンチの効いた色をしています。正直、おいしそうな色とは思えないのですが、次女はとても好きなようです。最近読んだ『視覚化する味覚』(岩波新書)には食べ物の色について次のような記述がありました。

今日当たり前のように使用されている食品着色料は、食品の色を簡単かつ安価に操作できるものとして、色の商品化を促進させてきた。……、食品着色の産業化と色の商品化は、食品の大量生産が進む中で色の画一化をより一層促すものともなった。黄色いマーガリンや赤いケチャップ、緑色のグリーンピースの缶詰など、多くの人が「当たり前」だと思うような色を大量かつ安価に再現する手段となったのだ。そしてそれは、私たちの視覚環境、そして味覚と結びつけられた視覚(色)が次第に標準化されてきた過程でもあった。

『視覚化する味覚』(岩波新書/久野愛)

 ホテルでは夕食を済ませてすぐ就寝。翌朝、ホテル近くからバスに乗り宮沢湖に行きました。北欧をイメージしたテーマパークがあり、無料で入れるメッツァビレッジ(※各店舗・サービスは有料)と、有料のムーミンバレーパークがあります。メッツァビレッジではファンモック(網状のトランポリン)やカヌー体験ができます。

 今回はファンモック目的で来たのですが、次女がムーミンも見たいというので、ムーミンバレーパークにも入園。僕はムーミンについて全く詳しくないので「ムーミンってカバ?(←妖精らしいです)」とか、「玉ねぎ頭の女の子(リトルミイという名前らしい)、奈良美智さんの描く子供っぽいな」とか思いながらブラブラと歩きます。

 

 全体的に綺麗で品よくまとまっていました。自然に囲まれた場所にあるのも「ムーミンバレー」の雰囲気を醸し出していて良いですね。下の写真は「ムーミン屋敷」です。

 なんというか、IKEAっぽい「青」ですよね。日本には「青い外壁の家」って少ない気がします。ムーミンはフィンランド、IKEAはスウェーデンですが、北欧3国の国旗には青が入っています。もしかしたら「青」に抱くイメージが日本人とは違うのかもしれません。
 同じ色でも社会・文化によって意味付けが異なるということはありそうです(いかにも入試評論文に出そうな話です)。もしかすると、僕にはドギツイ色に感じられる「ハリボー」も、文化の異なる人には「食欲をそそる色」に見えているのかもしれません(単に大人と子どもの違いかもしれない…)。